2011年8月12日金曜日

翼をください #2


「そりゃアンタが悪いわ、ユキちゃん」
放課後。
小雪は掃除をしながら友人の茜と先の事件について語り合っていた。
  茜は中学に入ってから出来た、小雪の友達だ。サバサバした性格からか、小雪からはとっつきにくいかと思っていたが、今では互いに親友と思っているほど、特別に仲のいい友達だ。
「なんでいっつも茜は智之の肩持つかなー。どう考えたってあれは智之が仕組んだ罠じゃない」
「私は公平に物を見てるだけ。教室間違えたのはどー考えてもアンタのせいよ」
クセの付いた箒を振るいながら茜は正論を放つ。
小雪は口を尖らせながら続けた。
「だって、あの時智之が話しかけてこなければ、私だって教室を確認したわ。うっとうしい事を言い続けて、私の目を瞑らせる事が目的だったのよ」
「どうかしら」
「なんでよー!」
ついつい叫んでしまう小雪。
しかし茜は冷静だ。……というより、こういう事態に慣れているようだ。
「良く考えなさい小雪」
「考えてるわ」
「もうちょっと冷静に。分析って奴をやってみなさい」
「う、……うん」
茜の言葉に少し腰を引く小雪。
「まず一つ。教室を間違えたのはなんで?」
段階を置いて事態を解決に結ぼうとする。小雪が苦手な分野だ。なんとか与えられた質問の回答を組み立てていく。
「私が目を瞑ってた……から」
「それはなんで?」
「智之の言う事に腹立てた……から」
「どうして腹を立てたのかしら?」
「智之が私を注意不足の間抜けだって……言うから」
「なんでそう言われたの?」
答えに詰まる小雪。
「……私が何回も智之に驚くから」
「どうして驚いてたのかしら」
「あいつが驚かすからよ」
多少無理矢理だが、なんとか智之を悪役にするために言葉を選ぶ。よし、と心の中でガッツポーズ。
「今日驚かされたのは何回?」
「……その時で五回目……」
「今までは? 昨日は? 覚えてる限りでどれくらい?」
ニヤニヤと笑う茜。いつもこいつはこの話になると急にイジワルになる。駄目だ。このままじゃあ駄目だ。こいつは今、楽しんでいる。
  ガッツポーズは消えて一気にアラートが鳴りたて始める。ワーニンワーニン。敵はもう目の前まで来ている。
だが、茜相手に嘘をついても仕方がないことを小雪は知っていた。
「……数え切れない……ぐらい……」
結局それが決定打となった。
「あんたの負け」
「なんでよー!」
振り出しに戻る。
「アンタの不注意よ。だいたいアンタ、智之くんに惚れてるんでしょ」
じとり、と少し意地悪な目でみる茜。
それを聞いた小雪は耳まで赤くして叫んだ。
「茜! 声おっきい!」
「そうなんでしょ?」
唯一、秘め事を打ち明けた人間は手厳しかった。小雪の秘密主義を無視して続ける。
「……うん」
ぽそり。
「じゃあかまってもらえて万々歳じゃない」
「ち、違うよ……」
「そんな訳ないわよ。うれしいって顔に書いてる」
「嘘よ! 絶対信じない!」
「まったく……アンタは何言っても納得しないんだから」
ため息をつく茜。
「そんなことないわ。私は真実を認める女なんだから」
「何よそれ……。じゃあアンタが間抜けだったって事、認めなさいな」
「なんでよー!」
再び小雪の叫びがこだまする。
「……ところで、本人はどこ行った?」
茜がふと思い出した様に誰にともなく聞いた。
  すると、たまたま隣でちり取りを持った男子がそれに応えた。
「確かごみ捨てに行ったハズ。そろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「もう帰ってこなくていいの!」
小雪が怒鳴りながら掃除道具を収めたロッカーへと進んでいく。すでに皆片付けており、道具を持っているのは小雪だけだ。顔を真っ赤にしながら箒を戻しにロッカーを開ける。
がちゃり。
「よーっぽど俺の事が嫌いみたいだな」
「―――ッ」
その狭い空間に彼は居た。
「智之くん!?」
ざわめく教室。凍ったままの小雪。呆れ顔の茜。
結局これで6回目も成功した事になる。

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