今日も五月晴れの爽やかな日だった。
大学キャンパスの三階にある、ゼミ用講義室。佐藤はそこのベランダで春の空を見上げていた。
講義も終わり、何もすることがなくなってしまった佐藤は、灰皿をどけてコンクリートフェンスにもたれかかっている。
メンソールの香りは漂っていない。これ以上、腹黒になることもないだろう。
そうしていると、前と同じように一人の女子がベランダに出てきた。
細い身体、三白眼、少し茶けた長い髪、小さな輪郭、ニヤけた笑顔、タバコが嫌い、アルトボイス、関西弁、左頬にある小さなホクロ。
辻本が手を挙げた。
「よっす、佐藤くん。試した?」
三白眼がニヤリと細くなる。イタズラそうで、似合う笑い方。
うん。間違いない。今度はちゃんと。
「感想言う前に、一個いいか?」
「んー?」
「……辻本」
辻本の手を取り、佐藤は言った。
「好きだ」
三白眼が、大きく開く。
そして、再び細く笑う。
今度はイタズラそうじゃない。うるおいを持った、でもとても似合う笑い方。
「……あたしも」
辻本の手に力がこもった。
佐藤もまた強く、しかし折れない程度に握り返す。
ああそうだ。これが欲しかったんだ。
あとは四つ目に気をつけないとな。
おわり。
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